概要

片頭痛は日常生活に大きな支障をきたす一次性頭痛で、社会経済および個人への影響が強い病気であると言われています。また世界的に見て、50歳未満の方において日常生活に支障をきたす原因の第3番目に位置付けられています。一次性頭痛といえども頭痛の程度が強く、頭痛発作時には仕事や家事や趣味などの活動全般に影響を及ぼします。また不用意に市販薬の鎮痛剤を多用してしまう方も多く、薬物使用過多による頭痛(薬物乱用性頭痛)になりやすい頭痛でもあり、適切な痛みの管理が必要です。

片頭痛は全人口の8.4%に認められるといわれています。また子供のころから発症することも多く、高校生では9.8%、中学生では約5%、小学生では3.5%の方が片頭痛を発症しているといわれています。20~40歳台の女性に多く認められますが、これ以外の年齢層や男性でも認められます。

小児の片頭痛には症状や治療、気を付けることなどに成人とは違った特徴があります。こちらで詳しく解説をしています。

片頭痛 目次

分類
診断基準
片頭痛の誘発因子、増悪因子
治療
 急性期治療薬
 予防薬
 

分類

片頭痛は国際頭痛分類第3版で細かく分類されています。これらのなかで1.1 前兆ない片頭痛、1.2.1.1 典型的前兆に頭痛を伴うものがよく見られます。稀ではありますが、1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛や1.2.3 片麻痺性片頭痛ではトリプタン製剤が使えませんので注意が必要です。

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)における片頭痛の分類

1.1 前兆のない片頭痛
1.2 前兆のある片頭痛
 1.2.1 典型的前兆を伴う片頭痛
  1.2.1.1 典型的前兆に頭痛を伴うもの
  1.2.1.2 典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
 1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛
 1.2.3 片麻痺性片頭痛
 1.2.4 網膜片頭痛
1.3 慢性片頭痛

診断基準

前兆のない片頭痛

下記の基準に該当すると片頭痛と考えられます。

A.B~Dを満たす発作が5回以上ある
B.頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C.頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
 ①片側性
 ②拍動性
 ③中等度~重度の頭痛
 ④日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D.頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 ①悪心または嘔吐(あるいはその両方)
 ②光過敏および音過敏
E.ほかに最適なICHD-3お診断がない

前兆のある片頭痛

A.BおよびCを満たす発作が2回以上ある
B.以下の完全可逆性前兆症状が1つ以上ある
 ①視覚症状
 ②感覚症状
 ③言語症状
 ④運動症状
 ⑤脳幹症状
 ⑥網膜症状
C.以下の6つの特徴の少なくとも3項目を満たす
 ①少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展する
 ②2つ以上の前兆が引き続き生じる
 ③それぞれの前兆症状は5~60分持続する
 ④少なくとも1つの前兆症状は片側性である
 ⑤少なくとも1つの前兆症状は陽性症状である
 ⑥前兆に伴って、あるいは前兆出現後60分以内に頭痛が発現する
D.ほかに最適なICHD-3の診断が無い

慢性片頭痛

A.片頭痛様または緊張型頭痛様の頭痛が月に15日以上の頻度で3ヶ月を超えて起こり、BとCを満たす
B.「前兆のない片頭痛」の診断基準B~Dを満たすか、「前兆のある片頭痛」の診断基準BおよびCを満たす発作が、併せて5回以上あった患者に起こる
C.3ヶ月を超えて月に8日以上で、下記のいずれかを満たす
 ①「前兆のない片頭痛」の診断基準CとDを満たす
 ②「前兆のある片頭痛」の診断基準BとCを満たす
 ③発作時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは麦角誘導体で改善する
D.ほかに最適なICHD-3の診断が無い

片頭痛の誘発因子、増悪因子

 多くの片頭痛の方で発作の誘因があることが知られています。発作の誘因を正確に把握し、それらの誘因を避けることで片頭痛を軽減したり、薬物治療の効果を上げることが期待されます。

片頭痛の誘因、増悪因子

 精神的因子:ストレス、ストレスからの解放、疲れ、睡眠の過不足

 内因性因子:月経周期

 環境因子:天候の変化、温度差、におい、音、光

 ライフスタイル因子:運動、血色、性的活動、旅行

 食事性因子:空腹、脱水、アルコール、特定の食品

治療

片頭痛の治療には主に発作急性期の治療(頭痛が起きたときに頭痛を抑える治療)と予防治療(頭痛の回数や頭痛の程度を減らす治療)の二つがあります。発作回数が少なく頭痛の程度が軽度の片頭痛であれば、急性期の治療のみで十分ですが、月に2回以上の片頭痛発作、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある場合は予防療法を検討することが推奨されています。

急性期治療薬

急性期治療薬は①アセトアミノフェン(カロナール)、非ステロイド性抗炎症薬(ロキソニンなど)、②トリプタン、③ジタンなどがあります。非常に症状が軽い場合はアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬が有効の場合もありますが、多くの方でトリプタンが必要になります。特に成人の日常生活に支障をきたす片頭痛発作では、非ステロイド性抗炎症薬よりもトリプタンの使用を推奨されています。

①アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬

様々な部分の痛みによく使用される痛み止めで、頭痛にも効果があります。緊張型頭痛(肩こりからくる頭痛)にも有効で使い勝手の良い薬です。症状の軽い片頭痛にもある程度の効果が期待できますが、症状が強い片頭痛にはほとんど効果がありません。効果が不十分な場合にはトリプタンの使用を考慮する必要があります。

トリプタン製剤

片頭痛の疼痛を効果的に抑える薬で、日本には現在5種類のトリプタン製剤があります。またスマトリプタンには点鼻薬、注射薬があり、ゾルミトリプタンとリザトリプタンには口の中で溶けるタイプ(口腔内崩壊錠)もあります。適切に使用することで片頭痛の頭痛をかなり抑えることが出来ます。

トリプタンは頭痛の起き始めに内服する必要があります。前兆の時や頭痛が酷くなってからではあまり効果は期待できません。また血管収縮作用があるため、片麻痺性片頭痛や脳幹性前兆を伴う片頭痛には使用できません。

③ジタン

トリプタンに似ている効果がある新しい薬です。ラスミジタンを使用することが出来ます。トリプタン製剤とは異なり、頭痛が悪化してからでも有効性が確認されています。またトリプタンと異なり血管収縮作用がないため、片麻痺性片頭痛や脳幹性前兆を伴う片頭痛にも使用できるとされています。副作用としてふらつきや眠気が強く生じることが多いため、当院では夕食後や眠前に内服することを勧めています。

予防薬

片頭痛の予防薬には①CGRP関連製剤、②抗てんかん薬、③抗うつ薬、④β遮断薬、⑤Ca(カルシウム)拮抗薬、⑥ARB/ACE阻害薬、などがあります。それぞれにも様々な薬があり、臨床研究に基づく科学的な根拠、薬効の強さ、日本での医療保険の適応の有無、副作用などに注意しながら予防薬を選択します。

①CGRP関連製剤

日本には抗CGRP抗体としてガルカネズマズ、フレマネズマブが、抗CGRP受容体抗体としてエレヌマブが使用できます。これらは注射製剤で1か月に1回程度皮下に注射することで片頭痛をかなり予防することが出来ます。有効性、安全性が非常に高い薬剤ですが非常に高価でもあるので、まずは他の内服予防薬からはじめ、十分な予防効果が得られない場合にCGRP関連製剤を投与します。

②抗てんかん薬

バルプロ酸、トピラマートは片頭痛の強い予防作用があり、バルプロ酸は保険診療として使用することが出来ます。胎児の奇形発生率があがる可能性があるため妊娠可能な女性には他の予防薬を考慮する必要があり、基本的に妊娠可能な年齢の女性には投与しません。副作用として、眠気がおきることが多くあります。また他に薬疹、肝機能障害など強い副作用が出現する可能性があり、採血検査などで注意しながら服用を継続する必要があります。

③抗うつ薬

三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは抑うつ状態の有無にかかわらず片頭痛の予防効果があります。眠くなる副作用があるので当院では夕食後か眠前に1日1回内服としています。まずは10㎎から内服を開始し、予防効果を見ながら徐々に増量します。緑内障や前立腺肥大症のある場合は使用することが出来ないため注意が必要です。また少量(1日30㎎以下)であれば妊娠期においても比較的安全に使用することが出来ます。その場合分娩の2~3週間前に中止することが望ましいです。

④β遮断薬

β遮断薬であるプロプラノロールは片頭痛の予防薬の第一選択薬の一つです。投与量は1日当たり20㎎から30㎎程度から開始し、効果を見ながら最大60㎎まで増量します。副作用として徐脈があるので注意が必要です。また気管支喘息を急激に悪化させる作用があるため、気管支喘息のある方には絶対に使用できません。またトリプタン製剤の一つであるリザトリプタンの血中濃度を上昇させるため、プロプラノロールとリザトリプタンは併用してはいけません。

⑤Ca拮抗薬

Ca拮抗薬であるロメリジン(ミグシス)も片頭痛の予防効果があります。①から④と比較すると予防効果はやや劣りますが、副作用が非常に少ないのが特徴で安全に使用することが出来ます。ロメリジンも妊娠または妊娠の可能性のある方には使用することは出来ません。