病気が原因で顔が半分動かなくなることがあります。急激に悪くなることもありますし、徐々に悪化することもあります。
症状が強い場合は分かりやすいのですが、軽度の場合は一見分かりにくいこともあります。
下記の症状があれば顔の麻痺の可能性を考えます。
- 眉毛が挙げられない、眉毛が下がる
- 瞼が目にかぶさる、目をつぶることが出来ない
- 口を横に引っ張れない、口角が下がる
- 水を口に含むとこぼれる、口を膨らますことが出来ない
- 鼻唇溝(小鼻の外側から口の脇にかけてできる溝)が浅くなる
顔を動かす神経は、脳の一部である脳幹から出て、頭蓋骨の穴を通て、耳のそばを通って顔面の筋肉に到達します。これを顔面神経といいます。顔面神経は左右に1つずつあり、それぞれがそれぞれの側の顔面の動きを担っています。顔面神経が病気で損傷すると、顔が半分動かしづらくなり、これを末梢性顔面神経麻痺といいます。末梢性顔面神経麻痺では眉毛も挙げられなくなります。
一方で、体を動かす脳の部分(一次運動野)や、一次運動野から出た運動を担う神経が損傷するとその神経が担っている部分が麻痺します。一次運動野の顔面を担っている部分や、顔面神経に至る途中の神経が障害されても顔面神経麻痺が出現します。これを中枢性顔面神経麻痺といいます。末梢性顔面神経麻痺と違い、中枢性顔面神経麻痺では眉毛は挙げられます。
末梢性顔面神経麻痺
末梢性顔面神経麻痺を起こす病気はたくさんありますが、実際に当院の外来にこられる患者さんの多くはベル麻痺かラムゼイハント症候群です。
ベル麻痺は末梢性顔面神経麻痺のみで、他の症状は伴わず、日に日に顔の半分が動かなくなっていきます。症状は弱いこともあれば強いこともあります。ラムゼイハント症候群は水ぼうそうのウイルスである水痘帯状疱疹ウイルスが原因と言われており、末梢性顔面神経麻痺の他に、耳に発赤や水疱が出来たり、耳鳴りやめまい、難聴を伴うことがありますが、顔面の麻痺のみのこともあります。
ラムゼイハント症候群の顔面神経麻痺は非常に症状が強く、自然に治る可能性は30%程度と言われており、早期にステロイド、抗ウイルス薬での治療を始めることが大切ですが、発症早期から適切な治療を行っても治る可能性は70%程度と言われています。
ベル麻痺は70%程度が自然に治るといわれていますが、ラムゼイハント症候群と区別がつきにくいことがあり、ステロイドの治療を早期に開始することが多いです。
ベル麻痺やラムゼイハント症候群の他に末梢性顔面神経麻痺を引き起こす病気として聴神経腫瘍などの脳腫瘍の可能性があり、頭部CTやMRIで評価を行った方がより安心できます。
当院では、末梢性顔面神経麻痺の患者さんにはまず頭部画像検査で評価をした後、基本的にステロイドとビタミン剤(神経の栄養剤)の内服を行い、症状が強い場合は抗ウイルス薬も処方します。
末梢性顔面神経麻痺はいかに早期に治療を開始するかが大切です。症状が治らなかった場合は顔面の麻痺が後遺症として残りますので、気づいたら早めに医療機関を受診しましょう。
中枢性顔面神経麻痺
脳の障害で手足が麻痺することがありますが、同様に顔も動かなくなることがあります。この場合は顔の麻痺だけというよりは、手足の麻痺やろれつが回らないなど、顔以外の脱力も出現することがほとんどですが、顔を動かす神経が集まっている前頭葉の一部分のみが病気で障害されることもないわけではありません。
急激にこのような症状が出現した場合は脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など比較的急激に悪化する病気であることが多く、なるべく早めに医療機関を受診し、頭部CTやMRIで評価を行う必要があります。
当院でこれらの病気が見つかった場合は、集中的、集学的な治療が可能な連携病院を紹介いたします。