手足が震える、痙攣する、頭が左右に動いてしまう、顔がぴくぴく動いてしまうなど、自分の意志とは関係なく勝手に動いてしまうことを不随意運動と言います。不随意運動には多くの種類があり、想定される病気にもたくさんの種類があります。どういった状況でどの部分がどのように動くかを観察し、どういった病気が想定されるかを考えて診察や検査を進めます。徐々に進む病気や、あるいは脳梗塞、脳腫瘍など危険な病気が潜んでいる可能性もありますので、新たに不随意運動が出現した場合は早めに医療機関を受診しましょう。

本態性振戦

パーキンソン病

大脳基底核障害

痙攣(けいれん)

 てんかん

 眼瞼痙攣

 片側顔面痙攣

本態性振戦

本態性とは原因がわからない、原因がはっきりしないことを指します。振戦とは簡単に言えば震えてしまう状態のことです。本態性振戦は原因不明の手や頭の震えを起こす病気です。

他に原因がなく、手や頭が震えてしまうもので特に高齢者に多く発症します。他の不随意運動をおこす病気と異なり、ただ手や頭が震えてしまいます。症状が軽ければ気にすることなく経過を見ていれば良いですが、症状が強くなると日常生活にも影響を及ぼします。また羞恥心が強く出てしまうと社会生活にも影響が出てしまうこともあり、場合によっては治療を考えた方がよいこともあります。

本態性振戦の治療

本態性振戦には不整脈の薬やてんかんの薬が有効である場合があります。高齢者の場合は薬の副作用が強く出てしまうことがありますので、慎重に飲み薬を開始する必要があります。

症状が特定の環境や状態で出現するのであれば、その状況を避けられれば避けましょう。またリラックスできる環境を作ることで改善することもあります。

内服では十分に効果が得られなかった場合や、内服で強い副作用が出現してしまった場合は、震えてしまう筋肉に注射をして麻痺させる治療(ボトックス)を考慮します。ボトックスも本態性振戦に有効ですが、筋肉がある程度麻痺させるためだるさが出現します。また3,4か月程度しか効果がないため、注射をし続けなければなりません。

内服や注射では十分に治療効果が得られない場合や、継続することが難しい場合は手術の選択肢も考えられます。脳の深部に電極を指して一定の間隔で電気信号を与えることで振戦が改善します。脳の手術であり、すべきかどうかは慎重に考えなければなりません。

パーキンソン病

パーキンソン病を発症すると、神経と神経の信号と伝えるドパミンという物質を作る神経細胞が減ってしまい、うまく神経の信号が伝わらなくなることで様々な症状が出現します。パーキンソン病の主な症状は①安静時振戦、②筋固縮、③無動・寡動、④姿勢反射障害です。

①安静時振戦 初期に現れる症状で、また最も分かりやすい症状です。パーキンソン病では、力を抜いてじっとしていると親指で小さな団子をこねるように(pill rolling tremor)手が震えます。片側から発症しますが徐々に進行し、数年単位で反対側にも症状が出現するようになります。

②筋固縮 あまり自分自身では自覚しないことが多いですが、ほかに人に手を動かしてもらうと、スムーズに動かずに抵抗を感じます。鉛のパイプのような抵抗を感じる(lead pipe appearance)と表現されます。

③無動・寡動 じっとしてあまり動きがなくなります。表情が乏しくなります。また本態性振戦と異なり字を書くことはできますが、文章を書いているとだんだん文字が小さくなってしまいます。

④姿勢反射障害 前傾姿勢でちょこちょこと小刻みに歩くようになります。また急激な体制の変化に耐えられず、よく転ぶようになります。

本人が自覚する症状は主に①の安静時振戦と④の姿勢反射障害で、周囲の人はこれらに加え③の無動・寡動に気づくこともあります。

すべての症状が同時に出現することはなく、まず片側の手の震えから始まり、年単位で進行して両側の震え、歩行障害と進行し、徐々に生活水準が低下していきます。これらの症状の他にも、便秘、睡眠障害、異常な発汗、認知症、幻覚、抑うつ、起立性低血圧(立ち眩み)など様々な症状が出現します。

パーキンソン病はドパミンが不足することが原因なので、ドパミンを補充したり、ドパミンの分解を抑えたりすることで症状が劇的に改善します。薬が効きづらくなったり、薬の副作用のために十分な量の薬が使えない場合などでは、手術を検討します。

パーキンソン病はパーキンソン病のような症状を起こす様々な病気との区別が難しい病気です。専門の診療科は神経内科になりますので、これらの症状が出現した場合は神経内科の病院やクリニックを受診しましょう。

大脳基底核障害

脳の前頭葉にある一次運動野から出た運動神経は脊髄を経由して手足の筋肉に到達することで、手足を支配し自由に動かすことが出来ます。この信号を調節して滑らかに運動を行えるようにするのが大脳基底核です。大脳基底核は比較的脳の中心にあり、上述の運動神経を包み込むように左右対称に存在しています。この大脳基底核が障害されると運動の調節がうまくできず、手足が震えて(振戦)しまいます。

パーキンソン病はこのうち黒質の神経細胞に異常が起きる病気で、大脳基底核が障害されると、パーキンソン病と同様に振戦、固縮、無動・寡動、姿勢反射障害が出現することがあります。ほかにも舞踏運動(手足や顔にみられる規則性のない落ち着きのない動き)、片側バリスム(片側の手足を投げ出すような激しい動き)、ジストニア(持続的な筋収縮により姿勢がねじれてしまうこと)などが出現することがあります。

遺伝病、変性疾患、脳梗塞、脳腫瘍、脳出血など様々な病気で基底核障害が出現します。

痙攣(けいれん)

手足や顔が規則正しくピクピクあるいはびくびくと動く運動を痙攣と言います。痙攣をおこす病気は様々ありますが、良く見られる病気としては、てんかん、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣などがあります。

てんかん

てんかんは『「脳の慢性疾患」で、脳の神経細胞に突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返す発作』として定義されています。てんかんは脳のどの部分に原因となる病気があるかにより様々な症状が出現します。その症状のうちの一つとして痙攣があります。運動神経の異常な興奮により手足や顔が勝手に規則正しく動いてしまいます。

てんかんが疑われた場合は原因となる脳の病気の検索や異常な電気的な興奮があるかどうかを調べるため、脳のMRIや脳波を行います。もしてんかんと診断された場合は、電気的な興奮を抑える抗てんかん薬を内服し発作を抑えます。全身の痙攣が起きた場合は危険な状態ですのですぐに救急要請をしましょう。

眼瞼痙攣

瞼がピクピク動く、瞼が開けづらいと感じた場合は眼瞼痙攣かもしれません。眼瞼痙攣は自然に改善することは期待できず、進行して目が明かなくなることもあり注意が必要な病気です。

疲れた時やストレスを感じた時などに一時的に片目の瞼がぴくぴくと動いてしまうことがあります。安静にすることで痙攣が落ち着くようであれば、これは眼瞼痙攣ではなく、眼瞼ミキオニアと呼ばれるもので治療する必要はなく様子を見てよいものです。

(特発性)眼瞼痙攣の初期症状は、まぶしく感じる、瞼が不快に感じる、瞬きが多いといった症状で始まります。ゆっくりと進行し重症化すると両目が開けづらくなることもあります。このような症状が出現した場合は早めに眼科を受診しましょう

片側顔面痙攣

目の周りの筋肉(眼輪筋といいます)や口の周りの筋肉(口輪筋といいます)がぴくぴくと勝手に動いてしまう場合は片側顔面痙攣かもしれません。多くの場合、正常の脳の血管が、顔面を動かす神経(顔面神経)を圧迫することでこのような症状が出現します(神経血管圧迫症候群といいます)が、まれに脳腫瘍などほかの病気で症状が出ることがありますので脳の検査が必要になります。

その他

上記の病気以外にも、薬の副作用で振戦が出現することがあります。他にも過呼吸、甲状腺機能亢進症など脳以外の病気でも振戦がおきることがあります。新しく振戦が出現した場合は新たに病気を発症している可能性がありますので早めに医療機関を受診しましょう。