はじめに
このページは大人の片頭痛の情報をもとに、大人の片頭痛と比べた小児の片頭痛の特徴について説明をしています。小児の片頭痛を理解する前に、まずは大人の片頭痛の特徴について理解しておくことをお勧めします。
小児片頭痛 目次
概要
特徴
生活習慣の改善
治療
急性期治療薬
予防薬
治療目標
小児特有の問題点
日本頭痛協会
概要
片頭痛は大人の病気と思われている方も多いですが、小児にも発症します。逆に小児は緊張型頭痛(肩こりの頭痛)が少ないため、定期的に頭痛の発作が起きる場合は積極的に片頭痛の可能性を考慮しなければなりません。
症状は基本的に大人の片頭痛と同様ですが、片頭痛固有の症状があいまいに出現することが多いのが小児の片頭痛の特徴です。
生活習慣の改善によって頭痛が軽減することもあるため、生活習慣の見直しも有効です。
薬物治療においても基本的には大人の片頭痛と同様ですが、トリプタン製剤は小児における安全性が必ずしも確認されているわけではありませんので注意が必要です。
特徴
大人の片頭痛は、片側性、拍動性の頭痛が側頭部に4~72時間程度生じることが特徴ですが、小児の場合はこれらの特徴があいまいになります。
多くの小児の片頭痛は両側性に出現することがあり、また拍動性というよりは圧迫感のあるような頭痛のこともあります。
小児は片頭痛が出現した場合に寝てしまうこともあり、起きたら治っていたといったパターンも多く見られます。
頭痛の持続時間も大人に比べて短いことが多く、国際頭痛分類第3版でも小児の片頭痛は2~72時間としても良いとされています。
生活習慣の改善
小児の場合は大人よりも環境の負荷によって片頭痛が誘発されることが多いのも特徴です。
・早寝早起きをする
・きちんと朝ご飯を食べる
・画面(特に小さな画面、スマートフォンや小型の携帯ゲーム機など)の時間制限を行う
・片頭痛を誘発する食事は避ける
こういった生活習慣の改善だけで症状が改善することもよくあります。
食事制限についての注意
片頭痛を誘発する可能性のある食品として、チョコレート、チーズ、卵、肉類、玉ねぎ、コーヒー、ヨーグルト、レバーなどが挙げられています。
特定の食品を摂ることで明らかに片頭痛が誘発される場合は制限しても良いでしょう。しかしこれらの食品で本当に片頭痛が出現するかどうかは慎重に判断しなければなりません。特に成長盛りの小児に対して、効果が十分に期待できるわけではない食事制限は、十分な片頭痛予防効果が期待できないだけでなく、むしろ栄養の偏りによる悪影響が出現する可能性もあるので注意が必要です。
治療
急性期治療薬
薬物治療については大人と基本的には同様です。しかしトリプタン製剤の小児への安全性は確認されていませんので、まずはイブプロフェンやアセトアミノフェンなどの通常の鎮痛薬を検討します。しかしこれらの鎮痛剤で十分な鎮痛効果が得られないことが多く、トリプタン製剤を用いることになる場合が多いです。
①鎮痛薬
小児に最もよく使用される鎮痛剤はアセトアミノフェン(カロナール)で頭痛にも有効です。
イブプロフェン(ブルフェン)はアセトアミノフェンより効果が強く、比較的安全に小児に使用できるので、頭痛にもよく使用されます。
②トリプタン製剤
大人の場合はほぼ第一選択薬として使用しますが、小児においては安全性が確認されていない薬ですので注意が必要です。しかし通常の鎮痛薬でも生活に重大な影響が残る場合はトリプタン製剤の使用も考慮すべきです。特に頭痛が原因で学校へ遅刻や早退をする場合は勉学に悪影響が出ているためトリプタン製剤の使用を積極的に考えなければなりません。
12歳以下の小児に対しては、スマトリプタン点鼻薬、リザトリプタン(マクサルト)の効果が示されています。13歳以上ではスマトリプタン(錠剤、点鼻薬、皮下注射)、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンの全てにおいて有効性が示されています。
小児・思春期の片頭痛急性期治療薬の投与量
鎮痛薬 | 投与量 | ||
---|---|---|---|
イブプロフェン | 5~10mg/kg | ||
アセトアミノフェン | 10~15mg/kg | ||
トリプタン | 小児期 (6~12歳) | スマトリプタン | 点鼻薬 20mg |
リザトリプタン | <40kg : 1/2錠(5mg) >40kg : 1錠 (10mg) |
||
思春期 (13~17歳) | スマトリプタン | 1錠 (50mg) 点鼻薬 20mg 皮下注射 1A (3mg) |
|
リザトリプタン | 1錠 (10mg) | ||
エレトリプタン | 1錠 (20mg) | ||
ナラトリプタン | 1錠 (2.5mg) | ||
ゾルミトリプタン | 1錠 (2.5mg) | ||
ナプロキセン+スマトリプタン | ナプロキセン 2~3錠 (100mg/錠) スマトリプタン1錠 (50mg) |
予防薬
小児の片頭痛に対する予防薬で確立したものはありません。まずは前述の生活習慣の改善を行うべきで、それでも改善しない場合には経験的に有効性が報告されている予防薬を検討します。
①アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)
成人に対しては非常に予防効果の強い薬です。経験的に小児でも予防効果が確認されています。もともとうつ病に使用する薬剤であり、その副作用として傾眠、便秘、口渇、食欲亢進などがありますが少量(2.5㎎や5㎎)から開始することで問題になることは少ないです。
②プロプラノロール(β遮断薬)
成人に対して非常に予防効果の強い薬で、小児にも予防効果が期待されます。もともとは頻脈系の不整脈に使用する薬剤で、副作用として低血圧、抑うつ、めまい、徐脈などがあります。また気管支喘息のある場合は、悪化させる作用があるため禁忌(使用できない)です。
③ロメリジン(Ca拮抗薬)
成人に対して予防効果の認められている薬です。他の予防薬と比較して副作用が少なく使用しやすい薬です。まれに起立性調節障害や低血圧傾向に注意が必要です。
④シプロヘプタジン(5-HT受容体拮抗薬)
抗ヒスタミン薬で主にアレルギーに使用される薬剤です。経験的に片頭痛の予防効果が認められています。痙攣の既往のある方や発熱時には痙攣を誘発する可能性があるため注意が必要です。
小児・思春期の片頭痛急性期治療薬の投与量
予防薬 | 投与量 | |
---|---|---|
三環系抗うつ薬 | アミトリプチリン | 5~10mg/日から開始、就寝前 維持量 5~60mg/日 (1.5mg/kgまで) |
抗てんかん薬 | トピラマート | 25mg (0.5~2mg/kg)から開始 維持量 25~600mg/日 (9mg/kgまで) |
β遮断薬 | プロプラノロール | 20mg~30mg (0.5~1mg/kg)から開始 維持量 30~60mg/日 |
Ca拮抗薬 | ロメリジン | 10mg/日から開始 維持量 10~20mg/日 |
治療目標
頭痛の発作を完全に抑えることは難しく、適宜鎮痛剤や予防薬を使ってある程度の生活水準を維持することが目標です。
第一目標は、学校に遅刻や早退せずに通えるようになること
第二目標は、勉学や課外活動などに大きな支障が出ないようになることです。
小児特有の問題点
症状や経過を言葉で表現できない
片頭痛は頭痛の性質や経過から診断する病気であり、頭痛のある本人自身が詳しく説明できないと診断が難しくなります。小児特有の問題点として、症状や経過を正確に伝えられなかったり、あるいは大人であれば異常として認識することが、異常なことと認識していないことなどがあります。頭を痛がっていそうな子供から話を聞く際にはこのことについて注意を払う必要があります。
片頭痛の場合に注意すべき特徴としては、閃輝暗点、嘔気、光過敏や音過敏といった特徴があります。子供の場合は閃輝暗点が定期的に出現してもいつも通りのことで異常とは思っていないことが多々あり、「きらきらするような模様が目の前をチカチカすることはあるか?」と積極的に聞き出すとよいでしょう。
また光過敏は丁寧に説明しても理解しづらい概念であり、たとえば「カーテンを閉めてほしくなる」「窓の近くにいたくなくなる」「スマホやテレビの画面がまぶしく感じる」などと言いかえると必要な情報が得られることもあります。
学校で片頭痛に対する理解が得られない
片頭痛は発作時には激しい頭痛、嘔気、倦怠感などが強烈に出現するものの、早ければ数時間で完全に症状がなおっしまうため、「授業中はぐったりしていたのに、昼休みになると元気に遊びまわる。仮病じゃないか?」と疑われる場合もあります。
また片頭痛は我慢できないほどの強い痛みですが、頭痛の起き始めに鎮痛剤を内服することでかなり改善します。そのためたとえ授業中でも薬を服用した方がよい場合が多々あります。しかし授業中の発作の場合には周囲の目を気にしてしまい、不必要に痛みを我慢したり、あるいは周囲から不適切な評価や扱いをうけてしまう可能性もあるため、学校での環境整備がとても重要になります。
・担任教員
授業中に鎮痛剤の内服をする、窓側ではない場所に席を設ける、他の生徒との環境整備などについて担任教員とあらかじめ相談しておくとよいでしょう
・養護教諭
頭痛発作時には保健室での休息が必要になることもあるため、あらかじめ片頭痛について伝えておくと良いでしょう。
学校での環境整備については日本頭痛協会(日本頭痛学会ではない)に詳しく記載があります。また養護教諭向けの頭痛冊子もあるので参考にするとよいでしょう。