脳の動脈(血管)が詰まってしまい、その先の脳に血液が届かなくなるとその部分の脳が損傷します。この状態を脳梗塞といいます。脳が損傷するとその機能が失われます。例えば右手足を動かす部分(左運動野)が脳梗塞になると、右手足が動かなくなり、これを麻痺(運動麻痺)といいます。他にもしびれ、ろれつが回らない、言葉が出ない(運動性失語)、言語が理解できない(感覚性失語)、視野が半分かける(視野障害)など様々な症状が出現する可能性があります。詰まった血管の場所や太さによって、出現する症状の種類や程度が変わります。

脳梗塞の症状

損傷する脳の部分や範囲によってさまざまな症状がおきます。分かりやすい症状では、意識障害、麻痺(片側の脱力)、感覚障害(しびれ、痛みがわからない、熱さや冷たさが触ってもわからない)、ろれつが回らない、言葉が出ない、言葉が理解できない、視野が半分欠けるなどです。一方で一見わかりにくい症状もあります。例えば運動失調(さまざまな筋肉を協調して動かすことが出来ない)、測定障害(物との距離がわからない)、失算(計算できない)、失書(字が書けない)、失認(認識する能力が低下する)など様々な症状が出現します。

脳梗塞は早めに治療を開始すべき病気なので、これらのような症状が出現した場合はなるべく早く医療機関を受診しましょう

脳梗塞の種類

詰まる血管の太さや詰まる原因によっていくつか種類があり、それによって治療方法やその後の再発予防の方法が変わりますので、発症した脳梗塞がどのタイプの脳梗塞なのかをはっきりさせることは非常に重要です。脳梗塞はラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、奇異性塞栓症、その他に分類されます。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞は脳の中に入る細い動脈(穿通枝と言います)が詰まることで発症する小さな脳梗塞で、動脈硬化が進行することで発症します。脳の中に刺さるように通っている細い血管が担っている脳が損傷するので脳の内部に小さな脳梗塞ができます。小さいとはいっても、運動神経が脳から出て体へ向かう途中の束になる部分にラクナ梗塞を発症すると、非常に強い運動麻痺が出現します。突然の麻痺やしびれ、ろれつが回らないなどの症状が出現することが多いです。血小板の作用を抑えて脳梗塞の再発予防をする必要があります。

アテローム血栓性脳梗塞

血管の中にアテローム(プラーク)といわれる塊ができてしまい、血液の通り道が細くなることがあります。アテロームはコレステロールの塊や、これを異物として攻撃した免疫の残骸などで形成されており、これも動脈硬化の結果として生じることが多いです。脳血流が低下したり(血行力学的脳虚血)、アテロームが大きくなって血管そのものが詰まったりすることで脳梗塞が起きます。

穿通枝と違って脳の表面に向かう太い血管が担っている脳が損傷するので、脳の表面に比較的大きめの脳梗塞が出現します。損傷する部位によっていろいろな症状が出現します。血小板の機能を抑えて脳梗塞の再発予防を行う必要があります。

BAD(Branch Atheromatous Disease)

穿通枝が出る部分の太い動脈にアテロームが形成されると、当初は穿通枝が1本詰まってラクナ梗塞として発症しますが、アテロームが大きくなるにつれ隣の穿通枝がどんどん詰まっていき大きな脳梗塞を脳の内部に形成します。当初は軽い麻痺でもBADの場合はどんどん進行し、非常に強い麻痺となります。

頸部頸動脈狭窄症(頸部内頚動脈狭窄症)

首の部分の頸動脈にはプラーク(アテローム)がよくできる場所があります。脳の血管に比べると大分太い部分なので、多少プラークが出来てもほとんど問題ありませんが、プラークがかなり大きくなると要注意です。脳血流が低下したり、プラークの一部が剥がれて血流にのって脳へ流れて脳血管に詰まることがあります。またプラークが非常に不安定な場合はプラークの中に出血をして急激にプラークが大きくなることもあります。

プラークが大きくなり血液の通り道(内腔といいます)が非常に細くなった場合は、手術で血管を切り開いてプラークを除去したり(頸動脈内膜剥離術、CEA)、ステントという細かな針金のようなものでできた筒を入れて開くことで(頸動脈ステント、CAS)、状態を改善することも考慮します。

心原性脳塞栓症

心房細動という不整脈があると、心臓の中に血栓というかさぶたの出来損ないのようなものが出来やすくなります。何かをきっかけにこの心臓の中の血栓が血流にのって体のどこかの動脈を塞いでしまうことがあります。脳血管を塞いでしまった場合は脳梗塞になり、これを心原性脳塞栓症といいます。この血栓は比較的大きなことが多いため、脳血管の中でもとても太い部分を突然塞ぐことが多く、心原性脳塞栓症は非常に広範囲な脳梗塞を引き起こすことが多いです。症状も重症になることが多いです。心原性脳塞栓症の場合は血小板の機能を抑えるのではなく、凝固系の機能を抑えて血液を固まりにくくする必要があります。

奇異性脳塞栓症

心原性塞栓症は心臓の中で血栓ができて、血栓が流れて脳の血管を塞いで脳梗塞が出来てしまうものですが、心臓以外の場所でも血栓ができて、脳血管を塞いでしまうことがあります。足の太い静脈(大腿静脈など)の中に時々血栓ができることがあります(深部静脈血栓症、DVT)。有名なのはエコノミークラス症候群です。エコノミークラス症候群は足の静脈に出来た血栓が肺に流れて肺の血管を塞いでしまい(肺塞栓症)、呼吸が出来なくなってしまいます。心臓の中に穴が開いていて(卵円孔開存、PFOや心房中隔欠損症、ASD)右心房から左心房へ流れ(右左シャント)が出来てしまうと、血栓は肺ではなく全身の血管に流れてしまいます。場合によっては脳梗塞を引き起こすことがあります。ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症ではない場合は、深部静脈血栓症の有無や心臓の中に穴がないかどうか、右心房から左心房へ流れがないかなどを調べ、奇異性脳塞栓症の可能性がないかどうかをチェックします。

脳梗塞の治療

超急性期 
-発症後数時間程度

脳の血管が詰まった直後から突然上記のような症状が出現しますが、完全に脳が損傷するまでには多少時間がかかります。脳が損傷するまでの間に血管の詰まりを解除すれば症状が治る可能性があります。詰まった部分を溶かしたり(血栓溶解療法)、詰まったものを引っ張り出す(血栓回収療法)ことで劇的に症状を改善させることが出来る場合があるので、こういった症状が出現した場合は迅速に医療機関を受診しましょう。ただし、血栓溶解療法や血栓回収療法は危険を伴う治療ですので、必ずしもすべての脳梗塞の方にお勧めできる治療ではありません。治療によって得られるメリットと治療の合併症を考慮して慎重に、かつ迅速に判断する必要があります。

急性期
-発症後1~2週間程度

脳梗塞になり、脳が損傷してしまうと残念ですがその部分を治すことは出来ず、症状は後遺症として残ることになります。飲み薬や点滴の薬を使って血液をサラサラにすることで、脳梗塞になりかかっている部分を助けたり、血管の詰まりがさらに拡大することを阻止します。また発症早期からリハビリテーションを行います。

慢性期

脳梗塞発症早期には、症状が悪化することがありますが、ある程度時間がたつと状態が落ち着いてきます。その後は後遺症に対して適宜リハビリテーションを行いつつ、再発を予防する治療に重点が置かれることになります。再発予防は血液サラサラの薬を内服しつつ、生活習慣病の治療や食事療法、運動療法を継続していくことになります。

脳梗塞は予防が大切です

一度脳梗塞を発症すると、最善の医療を最善のタイミングで提供されても残念ながら後遺症が残ることが多く、日常生活の活動が困難になります。一度安定してしまった後遺症は残念ながら現在の医学では治すことは出来ません。そのため脳梗塞を発症しないように予防することがとても大切になります。

脳梗塞の発症の主な危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈(心房細動)、肥満、喫煙です。今すぐ予防に取り組みましょう

禁煙

生活習慣病や肥満は直ぐには正常化することは難しいですが、喫煙は今すぐに取り組める脳梗塞の予防です。癌などの他の病気の予防にもなりますので喫煙をしている場合はすぐに止めましょう。当院では行っていませんが、保険診療で禁煙のお手伝いをする「禁煙外来」をやっている病院もありますので、どうしても止められないかたは禁煙外来も選択肢に入れるとよいでしょう。

生活習慣病、肥満

高血圧、糖尿病、脂質異常症は生活習慣病と言われ(以前は成人病と言われていました)、血圧測定や採血検査をしないと見つけることが難しい病気です。定期的な健康診断が重要で、職場の検診や市の検診は必ず受けましょう。既に生活習慣病を指摘されている方はしっかりと治療をしましょう。

心房細動

心房細動は心原性脳塞栓症の原因となり、非常に重篤な脳梗塞を発症する可能性があります。年齢や生活習慣病の有無などでスコア化して、場合によっては脳梗塞を発症していなくても血液サラサラの薬が必要になります。またすでに脳梗塞を発症した方は原則血液サラサラの薬を続けることになります。

すでに脳梗塞を発症した方の再発予防

一度脳梗塞を発症してしまった方は既に動脈硬化が進んでいたり、心原性塞栓症や奇異性塞栓症などの他の病気があることが多く、脳梗塞を再発する可能性が高いです。適切な血液サラサラの薬を内服すると同時にしっかりと禁煙し、生活習慣病の検査を定期的に行いながら治療し、適切な運動療法、食事療法を心がけましょう。