-高血圧の定義
-高血圧の治療開始基準
-治療目標血圧
-高血圧の非薬物療法
-高血圧の薬物療法
高血圧の定義
高血圧と一言で言っても、軽度の血圧の異常から重度のものまであります。120/80未満を正常血圧、140/90以上を高血圧、その間を高値血圧と定義されます。また高血圧もその程度によってⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度に分類されます。家庭血圧は通常診察室血圧より低めに出ることが多いため、血圧の分類でも家庭血圧ではより低めに定義されています。
分類 | 診察室血圧 | 家庭血圧 | ||||
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |||
正常血圧 | <120 | かつ | <80 | <115 | かつ | <75 |
正常高値血圧 | 120-129 | かつ | <80 | 115-124 | かつ | <75 |
高値血圧 | 130-139 | かつ/または | 80-89 | 125-134 | かつ/または | 75-84 |
Ⅰ度高血圧 | 140-159 | かつ/または | 90-99 | 135-144 | かつ/または | 85-89 |
Ⅱ度高血圧 | 160-179 | かつ/または | 100-109 | 145-159 | かつ/または | 90-99 |
Ⅲ度高血圧 | ≧180 | かつ/または | ≧110 | ≧160 | かつ/または | ≧100 |
(孤立性) 収縮期高血圧 | ≧149 | かつ | <90 | ≧135 | かつ | <85 |
高血圧の治療開始基準
正常血圧ではないからといって、すぐに降圧剤(高血圧のお薬)を開始するわけではありません。高血圧の程度、年齢、他の病気の有無などにより、「すぐに降圧剤で血圧を下げた方が良い場合」もあれば、「まずは食事療法や運動療法を開始し、改善が無ければ降圧剤を開始する場合」など状況により様々な選択肢があります。
高血圧の開始基準については、まず本人の危険因子によりリスクを3段階に分けます。各段階により高血圧の程度からの方針が決められています。
年齢、性別、喫煙、その他の病気によりリスク第一層から第三層に分け、血圧の値により次の表から低リスク、中等リスク、高リスクのどのクラスに当てはまるかを確認します。
次に、診察室や検診での血圧の高さによりただちに薬物療法を開始、おおむね1か月後に再評価、おおむね3か月後に再評価、3~6か月後に再評価、1年後に再評価、を行います。
治療目標血圧
高血圧の治療が始まった場合、血圧はどこまで下げる必要があるのでしょうか。140以下でしょうか?130以下でしょうか?すでに脳梗塞や心筋梗塞がある方も、いままでに脳や心臓に病気が無い方も、同じ目標を目指すのでしょうか?
基本的な血圧管理の目標は、病院で130/80mmHg未満、家庭で125/75mmHg未満です。
結構低いな、と思われる方も多いと思います。当院でも非常に多くの方に高血圧の治療を行っていますが、すぐに目標血圧を維持できるようになる方もいますが、多くの方はなかなか達成できずに苦労をしています。
一方で、75歳以上の高齢者、両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞がある方、尿蛋白が陰性の慢性腎臓病のある方は140/90mmHg未満、自宅では135/85mmHg未満を目標とします。
現在高血圧の治療をしている方は、自分の血圧、特に自宅で測定した血圧がどれほどなのかを認識し、目標を達成できているか今一度確認をしましょう。
高血圧の非薬物療法
降圧薬(お薬)以外のの治療
高血圧の薬物治療が始まった方は、薬物だけではなくさまざまな非薬物療法(生活習慣の改善)を行うことで効果的に治療を進めることが出来ます。また非薬物療法により長期的な高血圧治療の効果も期待できます。また、非常に多くの方が高血圧になること、多くの方が高血圧の予備軍の可能性であることを考えると、現時点で血圧が問題ない方でも無理のない範囲で血圧の非薬物療法を行っておくことをお勧めします。
推奨される非薬物療法としては、
- 食塩制限 1日当たり6g未満
- 野菜・果物の積極的摂取
飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控える
多価不飽和脂肪酸、低脂肪乳製品の積極的摂取 - 適正体重の維持:BMI25未満
- 運動療法:軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を毎日30分、または週180分以上行う
- 節酒:エタノールとして1日当たり男性20-30mL以下、女性10-20mL以下に制限する
- 禁煙、受動喫煙も避ける
が挙げられます。
こういった食事や運動療法は地味なわりに、血圧が下がるまでに多少時間がかかります。しかし、長期間続けることによって血圧降下作用が期待されるほか、動脈硬化の進行を遅くすることにより将来的な血圧上昇を抑制することに目的があります。
食事療法についての注意
高血圧治療の食事療法は減塩が最も重要です。また、飽和脂肪酸やコレステロールの制限、多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品の摂取も進められます。一方でこれら以外の食品で血圧降下作用があるかのように記載されているものもありますが、安易に期待してはいけません。できる限り基本に沿って、塩分制限を行うことが重要です。
特定保健用食品(消費者庁長官が承認するものであり、厚生労働省や文部科学省ではない)は降圧作用のある成分が含まれてはいるものの、十分な降圧効果は期待できません。承認されるにあたり臨床試験はあるものの、降圧薬(高血圧の薬)と比べると臨床試験期間が短く対象人数も少ないです。血圧降下作用について特定保健用食品に過度な期待は出来ません、また降圧剤(高血圧の薬)の代わりにもなりません。
高血圧の薬物療法
降圧薬(血圧のお薬)
降圧薬は非薬物療法と比べ圧倒的に降圧が期待でき、病院での高血圧治療といえば基本的に降圧薬の調整になります。降圧作用のある薬にはいくつかの種類があり、それぞれ作用機序が異なるため、投薬対象となる方や副作用などが異なります。また降圧作用以外にも薬理作用があるため、合併している疾患によって選ぶべき薬が変わります。
降圧作用のある薬としては
- カルシウム拮抗薬
- アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
- アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
- サイアザイド系利尿薬
- β遮断薬(αβ遮断薬を含む)
- α遮断薬
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)
などが挙げられます。
① カルシウム拮抗薬
血管を収縮する作用のあるCa(カルシウム)の受容体をブロックして、血管を広げて血圧を下げます。もっとも使いやすく副作用も比較的少ない降圧剤です。副作用は、動機、顔のほてり、足などのむくみ、歯茎の腫れ、便秘などがあります。
代表的な薬
一般名 | 先発品 |
アムロジピン | アムロジン、ノルバスク |
ニフェジピン | アダラート、セパミット |
シルニジピン | アテレック |
アゼルニジピン | アゼルニジピン、カルブロック |
エホニジピン | ランデル |
② ARB
血管を収縮させる体内の物質をブロックして血圧を下げます。Ca拮抗薬に次いでよく使用されている降圧剤です。副作用として、ACE阻害薬は、せき、血管浮腫などがあり、またACE阻害薬、ARBともに高カリウム血症が挙げられます。
一般名 | 先発品 |
ロサルタン | ニューロタン |
カンデサルタン | ブロプレス |
バルサルタン | ディオバン |
テルミサルタン | ミカルディス |
オルメサルタン | オルメテック |
アジルサルタン | アジルバ |
イルベサルタン | イルベタン |
③ ACE阻害薬
ARBと同様に血管を収縮させる体内の物質をブロックして血圧を下げます。一時期非常に多く処方された降圧薬ですが、ARBが使用できるようになってからは徐々に処方される数が減っています。副作用として、せき、血管浮腫、高カリウム血症が挙げられます。
一般名 | 先発品 |
カプトプリル | カプトリル |
エナラプリル | レニベース |
イミダプリル | タナトリル |
など |
④ サイアザイド系利尿薬
血管から食塩と水分を尿として体外に出すことによって血圧を下げます。利尿薬は特に高齢者、低レニン性高血圧、慢性腎臓病合併高血圧、糖尿病、インスリン抵抗性など食塩感受性が亢進した高血圧に効果が期待できます。また心不全の予防効果も期待できます。
副作用として、高尿酸血症、低カリウム血症、日光過敏症などが挙げられます。
一般名 | 先発品 |
トリクロルメチアジド | フルイトラン |
ヒドロクロロチアジド | ヒドロクロロチアジド |
インダパミド | ナトリックス |
など |
⑤ β遮断薬(αβ遮断薬を含む)
心臓の過剰な動きを抑えて血圧を下げます。降圧薬としては第一選択薬に含まれていませんが、交感神経活性の亢進が認められる若年者の高血圧や労作性狭心症、心筋梗塞後、頻脈合併例、甲状腺機能亢進症などを含む高心拍出型症例、高レニン性高血圧、大動脈解離などには積極的な適応があります。
副作用として、喘息などの呼吸器疾患の悪化などが挙げられます。
一般名 | 先発品 |
β遮断薬 | |
ビロプロロール | メインテート |
アテノロール | テノーミン |
αβ遮断薬 | |
カルベジロール | アーチスト |
など |
⑥ α遮断薬
血管を広げて血圧を下げます。特に褐色細胞腫の血圧コントロールには積極的に使用します。高血圧の治療薬としては第一選択には含まれず、他の薬剤を複合的に使用してもコントロール困難な症例に対して、併用する形で使用します。
副作用として、起立性低血圧によるめまい、動悸、失神があります。
一般名 | 先発品 |
ドキサゾシン | カルデナリン |
ウラピジル | エブランチル |
など |
⑦ MRB
腎臓に働き、カリウムを喪失することなく塩分を排泄しながらの利尿効果があり、降圧効果が期待できます。第一選択薬には含まれず、治療抵抗性高血圧に対して併用することでさらなる降圧効果を期待する薬剤です。原発性アルドステロン症に対しては治療の中心となる薬剤です。
副作用として、男性の女性化乳房・陰萎、女性では月経痛などの副作用があります、新しい薬剤ではこういった副作用は少ないです。他に高カリウム血症の危険性があります。
一般名 | 先発品 |
スピロノラクトン | アルダクトンA |
エプレレノン | セララ |
エサキセレノン | ミネブロ |
お薬はやめられますか?
これは多くの方から質問を受けます。また薬を始めると止められないから、血圧が高くても薬は始めない、という方もいます。同様にすでに降圧剤を始めてはいるものの降圧目標に達していない方のうち、薬はどうしても増やしたくない、という方もいます。前述の通り生活習慣の改善(非薬物療法)によりある程度の血圧降下が期待できますが、大幅な改善は難しいと言えます。
二次性高血圧の場合
血圧を上げるほかの病気がある場合、二次性高血圧と言います。具体的には腎臓の病気や内分泌の病気などが挙げられます。これらの病気の場合には原因となる病気を治療することで高血圧自体が治ることもあります。
生活習慣があまりにも悪い場合
生活習慣があまりにも悪い場合は、非薬物療法を厳格に行うことによって血圧がかなり改善する場合があります。特に肥満が強い場合、体重の適正化により血圧が大幅に改善することもあります。
血圧が高い体になってしまったと考える
多くの高血圧の方は加齢、動脈硬化などにより血圧が高い状態に既になってしまったと考えられます(本態性高血圧)。基本的に動脈硬化は治りませんので、血圧が高い状態も大幅に改善することはありません。非薬物療法を行い適切な体重管理をしても血圧が正常化しない場合は、すでに血圧が高い体になってしまったと考えた方が良いかもしれません。降圧剤を中止することも可能ですが、その場合は血圧が再上昇し、脳卒中や心筋梗塞、腎臓障害などの危険性が上がることになります。これは降圧剤を始めたためにそうなったものではありません。
高血圧は自覚症状はなく、突然脳卒中や心筋梗塞などを発症する病気です。くれぐれも自己判断で降圧薬を止めることはせず、非薬物療法を継続しながら健康寿命を延ばしていきましょう。