概要
片頭痛は女性に比較的多い頭痛疾患です。日本における片頭痛の有病率は全人口の8.4%といわれていますが、男女別に見ると女性は男性の約3倍多いとされています。この差の大きな原因は女性ホルモン、特にエストロゲンの変動にあると考えられています。
女性の頭痛の特徴は、ライフステージによって大きく変化するという点にあります。初潮を迎える思春期頃から片頭痛が始まり、月経周期に合わせて頭痛が変動し、妊娠・出産・更年期・閉経というライフステージの変化に伴って頭痛の頻度や強さが変化していきます。こうした変化の背景にはエストロゲンの分泌量の変動が深く関わっています。
また、低用量ピルや更年期ホルモン補充療法(HRT)など、女性が使用する機会の多いホルモン製剤と頭痛の関係についても正しく理解しておくことが重要です。特に前兆を伴う片頭痛がある場合には、エストロゲン含有製剤の使用は禁忌(使用してはいけない)とされています。
女性の頭痛は「体質だから仕方ない」「毎月のことだから」と諦めている方も少なくありませんが、正しく診断し適切に対処することで、生活への影響を大幅に減らすことができます。
当院での取り組み
当院では頭痛に対しては積極的に画像検査を行っています。CT、MRIを完備しており基本的に即日検査、即日説明をしています(受診された時間やその日の混み具合によっては、翌日以降に検査を予定することもあります)。
女性の頭痛は月経周期・妊娠・更年期などのホルモン変動と密接に関連していることが多く、問診では月経との関係を丁寧にお伺いしています。頭痛ダイアリーを活用することで月経と頭痛の関係がより明確になり、診断と治療方針の決定に役立ちます。
女性に片頭痛が多い理由
片頭痛の発症に関わる最も重要な因子の一つが、女性ホルモンの変動です。特にエストロゲン(卵胞ホルモン)の急激な低下が、脳の痛み調節システムに影響を与え、片頭痛発作を引き起こしやすくするといわれています。
月経前にはエストロゲンが急激に低下するため、この時期に片頭痛発作が集中しやすいパターンがあります。同様に、更年期においてもエストロゲンが不規則に変動・低下するため、頭痛のパターンが変化したり悪化したりすることがあります。
小児期には男女差がほとんどありませんが、思春期以降に女性の有病率が急増することも、女性ホルモンの関与を示唆しています。
月経と頭痛の関係
月経周期は大きく4つの時期に分けられます。それぞれの時期におけるホルモンの変化と頭痛の関係を理解しておくことは、自身の頭痛のパターンを把握する上で役立ちます。

月経期(月経1〜5日目) エストロゲンが最も低い時期であり、月経関連片頭痛が最も起きやすいタイミングです。通常の片頭痛に比べて持続時間が長く、市販の鎮痛薬が効きにくい傾向があるとされています。
卵胞期(月経開始〜排卵前) 月経が始まるとエストロゲンは低い状態から徐々に上昇します。月経開始直後はエストロゲンが低い状態であるため、この時期に頭痛が起きやすい傾向があります。その後徐々にエストロゲンが上昇し、頭痛が落ち着いてくる方が多いです。
排卵期(月経14日目前後) 排卵に伴いエストロゲンが一時的に低下することがあり、この時期に頭痛が出現する方もいます。
黄体期(排卵後〜次の月経前) エストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)が上昇した後、月経前に再び低下します。この低下が次の月経関連片頭痛の発作と関連するとされています。
月経関連片頭痛の診断基準
月経と関連した片頭痛は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において以下のように定義されています。
純粋月経時片頭痛(Pure menstrual migraine)
前兆のない片頭痛の診断基準を満たし、かつ以下の条件を満たすものです。
A.月経のある女性において、前兆のない片頭痛の診断基準B〜Dを満たす発作が起こる
B.少なくとも3回の月経周期のうち2回以上において、月経開始の2日前から月経3日目の間(−2日〜+3日)にのみ発作が起こることが記録によって確認されている
C.月経周期の他の時期には発作が起こらない
月経関連片頭痛(Menstrually related migraine)
A.月経のある女性において、前兆のない片頭痛の診断基準B〜Dを満たす発作が起こる
B.少なくとも3回の月経周期のうち2回以上において、月経開始の2日前から月経3日目の間(−2日〜+3日)に発作が起こることが記録によって確認されている
C.月経周期の他の時期にも発作が起こることがある
臨床的な特徴として、月経関連片頭痛は通常の片頭痛に比べて発作の持続時間が長く、強度が強い傾向があるとされています。またトリプタン製剤の効果が出にくいケースもあることが知られています。頭痛ダイアリーに月経日と頭痛の記録をつけることで、月経との関係をより正確に把握することができます。
PMS(月経前症候群)と頭痛
PMSは月経開始の3〜10日前から始まり、月経が始まると改善する精神的・身体的症状のことをいいます。頭痛はPMSの症状の一つとして現れることがあり、腹部膨満感・浮腫・乳房の張り・倦怠感・気分の落ち込みや不安感などを伴うことがあります。
PMSに伴う頭痛が月経関連片頭痛と重なっている場合と、そうでない場合があります。両者の鑑別は治療方針に影響するため、頭痛の性状(拍動性かどうか、随伴症状の有無など)を確認することが重要です。
PMSが強い場合には、婦人科的な管理も重要になります。必要に応じて婦人科との連携をご提案する場合があります。
妊娠・授乳中の頭痛
妊娠中はエストロゲンが高い状態で安定するため、妊娠前に片頭痛があった方でも妊娠中に頭痛が改善・消失することが多いとされています。特に妊娠中期以降に改善する方が多い印象です。しかし全員に当てはまるわけではなく、妊娠中も頭痛が続いたり、悪化する方もいます。
妊娠中の頭痛の治療においては、薬剤の選択に細心の注意が必要です。胎児への影響を考慮した上で使用できる薬剤が限られており、自己判断での市販薬の使用は避けていただく必要があります。使用できる薬剤については医師にご相談ください。
また、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や子癇(しかん)でも頭痛が生じることがあり、妊娠中の新たな頭痛や頭痛の悪化は産科への相談が必要です。
授乳中も使用できる薬剤に制限があります。頭痛でお困りの場合は、授乳中であることをお伝えの上でご相談ください。
更年期と頭痛
更年期とは閉経の前後5年間、合計10年間を指します。この時期はエストロゲンが急激かつ不規則に変動しながら低下していくため、頭痛のパターンが変化する方が少なくありません。
更年期における頭痛の変化としては、以下のようなパターンが見られます。
- これまで片頭痛があった方で、更年期に頭痛が悪化・増加する
- これまで片頭痛がなかった方で、更年期から頭痛が始まる
- 更年期症状(ほてり・のぼせ・発汗・不眠など)と頭痛が重なって出現する
一般的に、閉経後はエストロゲンが低い状態で安定するため、閉経後に片頭痛が改善・消失する方が多いとされています。しかし更年期の期間中は頭痛のコントロールが難しくなることがあります。
また、更年期に初めて出現した頭痛については、一次性頭痛と決めつけず、画像検査による二次性頭痛の除外が重要です。50歳以降に新たに始まった頭痛は、脳腫瘍・側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)などの鑑別が必要とされています。
ピル・ホルモン補充療法と頭痛
低用量ピル(経口避妊薬)と頭痛
低用量ピルと頭痛の関係は複雑で、個人差があります。ピルの服用により頭痛が改善する方がいる一方で、悪化する方もいます。
最も重要な注意点として、前兆を伴う片頭痛がある場合、エストロゲン含有のピルは原則として禁忌とされています。これは前兆を伴う片頭痛が脳梗塞のリスク因子であり、エストロゲンが血栓リスクをさらに高める可能性があるためです。頭痛診療ガイドライン(日本頭痛学会)および産婦人科のガイドラインでも同様の注意が示されています。
前兆のない片頭痛の場合はピルを使用できることがありますが、使用の開始・継続については頭痛の状態を慎重に評価しながら判断する必要があります。必ず医師にご相談ください。
ホルモン補充療法(HRT)と頭痛
更年期症状に対して行われるホルモン補充療法(HRT)と頭痛の関係についても、個人差が大きいとされています。HRTの種類(エストロゲン単独・黄体ホルモン併用)や投与経路(経口・貼付・ジェルなど)によっても頭痛への影響が異なることがあります。
治療
急性期治療
月経関連片頭痛の急性期治療は、通常の片頭痛に準じてトリプタン製剤や鎮痛薬(NSAIDs)が使用されます。ただし、月経関連片頭痛は通常の片頭痛よりも発作が長く、再発しやすい傾向があるため、早めの服薬と十分な用量の確保が重要です。頭痛診療ガイドラインでは、月経関連片頭痛に対してトリプタン製剤が推奨されています。
予防療法
月経関連片頭痛の頻度が高く、日常生活への影響が大きい場合には予防療法を検討します。
短期予防療法として、月経開始予定日の数日前からトリプタン製剤やNSAIDsを定期的に内服して発作を予防する方法があります。月経周期が比較的規則的な方に有効とされています。
長期予防療法として、月経に関わらず通年で予防薬(β遮断薬・バルプロ酸・アミトリプチリンなど)を使用する方法があります。月経以外の時期にも片頭痛発作がある方や、月経周期が不規則な方に適しています。
また、従来の予防薬で効果が不十分な場合には、CGRP関連製剤(エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ)が選択肢となります。
非薬物療法
規則正しい睡眠・食事・水分補給を心がけることが頭痛の予防に有効とされています。頭痛ダイアリーをつけることで、月経との関係や誘発因子を把握しやすくなります。また、過度なストレスや睡眠不足は頭痛の誘発因子となることが多く、生活リズムの安定が重要です。
当院へのご案内
当院では脳神経外科専門医・頭痛専門医が診察を行っており、CT・MRIによる画像検査を院内で施行できる体制を整えています。女性の頭痛でお悩みの方、月経との関係が気になる方、更年期から頭痛が変化した方、ピルとの関係について相談したい方など、お気軽にご相談ください。
