概要

薬物乱用性頭痛(薬剤の使用過多による頭痛、Medication Overuse Headache:MOH)は、頭痛に対して鎮痛薬やトリプタン製剤を使いすぎることで、頭痛がかえって慢性化・悪化してしまう状態です。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において独立した頭痛疾患として分類されており(8.2 薬剤の使用過多による頭痛)、慢性頭痛の重要な原因の一つとして位置づけられています。

日本における薬物乱用性頭痛の有病率は人口の約1〜2%と推定されており、慢性頭痛患者の中では決して珍しくない状態です。もともと片頭痛や緊張型頭痛があった方が、鎮痛薬を頻繁に使用するうちにこの状態に陥ることが多く、「以前より薬が効かなくなってきた」「薬を飲まないと一日中頭が痛い」「朝起きると頭が痛い」という訴えが典型的です。

薬物乱用性頭痛は、原因が「薬の使いすぎ」にあるため、適切な指導のもとで薬剤の使用を整理することが治療の基本となります。自己判断での急な中止は離脱症状を引き起こすことがあるため、必ず専門医の指導のもとで対処することが重要です。頭痛診療ガイドライン(日本頭痛学会)でも、薬物乱用性頭痛の早期診断と適切な介入が推奨されています。

※現在「薬物乱用性頭痛」は、正確には「薬剤の使用過多による頭痛」と名称が変わりました。「薬剤の使用過多による頭痛」のほうがより適している病名ではありますが、当院のホームページでは「薬物乱用性頭痛」という名称で記載しています。

当院での取り組み

当院では頭痛に対しては積極的に画像検査を行っています。CT、MRIを完備しており基本的に即日検査、即日説明をしています(受診された時間やその日の混み具合によっては、翌日以降に検査を予定することもあります)。

薬物乱用性頭痛が疑われる場合は、まず現在の頭痛のパターンと薬の使用状況を詳しくお伺いします。頭痛ダイアリーをつけていただくことで、薬の使用頻度と頭痛の関係が明確になり、診断と治療方針の決定に役立ちます。薬剤の整理(離脱)については、患者さんの状況に合わせて無理のない形で進めていきます。


どのように起こるか(メカニズム)

鎮痛薬やトリプタン製剤を頻繁に使用し続けると、脳の痛み調節システムに変化が生じると考えられています。具体的には、痛みを抑制する神経回路が機能しにくくなり、痛みに対して過敏な状態(中枢性感作)が生じるとされています。その結果、以前は薬が効いていた頭痛が効きにくくなり、薬を使わないと頭痛が出現するという悪循環に陥ります。

この悪循環が続くと、元々あった片頭痛や緊張型頭痛の発作がさらに頻繁になり、最終的には毎日のように頭痛が続く慢性頭痛の状態になります。薬を飲めば一時的に楽になるため、つい使用頻度が増えてしまい、さらに頭痛が悪化するという負のサイクルに入ってしまうことが問題の本質です。


診断基準

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)における薬物乱用性頭痛(8.2)の診断基準は以下の通りです。

A.以前から頭痛疾患を有する患者において、頭痛が月に15日以上存在する
B.1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を、3カ月を超えて定期的に過剰使用している
C.他のICHD-3の診断に該当しない

使用している薬剤の種類によって、過剰使用の定義となる使用頻度が異なります。詳細は次のセクションを参照してください。


原因となる薬剤と使用頻度の目安

薬物乱用性頭痛を引き起こす可能性のある薬剤と、ICHD-3における過剰使用の目安となる使用頻度は以下の通りです。

エルゴタミン・トリプタン製剤・オピオイド・複合鎮痛薬

月に10日以上の使用が3カ月を超えて続く場合、薬物乱用性頭痛の原因となりうるとされています。

トリプタン製剤は片頭痛の急性期治療薬として非常に有効な薬剤ですが、使用頻度が高くなりすぎるとMOHの原因となります。「頭痛が来そうだから」「念のため」という理由での使用が積み重なると、使用頻度が増えやすくなります。

単純鎮痛薬(アスピリン・アセトアミノフェン・NSAIDsなど)

月に15日以上の使用が3カ月を超えて続く場合、薬物乱用性頭痛の原因となりうるとされています。

市販の頭痛薬の多くはこのカテゴリーに含まれます。「市販薬だから大丈夫」と思っていても、使用頻度が高ければ薬物乱用性頭痛の原因となることがあります。

複合鎮痛薬について

カフェインを含む複合鎮痛薬(市販の頭痛薬に多く含まれる)は、単純鎮痛薬よりも薬物乱用性頭痛を引き起こしやすいといわれています。カフェイン自体に依存性があるためと考えられています。


症状の特徴

薬物乱用性頭痛の症状は使用している薬剤の種類によって多少異なりますが、共通する特徴として以下が挙げられます。

  • 頭痛が月に15日以上あり、以前より頻度が増えている
  • 朝起きたときから頭痛がある(起床時頭痛)
  • 薬を飲むと一時的に楽になるが、効果が短くなってきた
  • 以前より薬の量が増えた、または効果が弱くなった
  • 薬を飲まないと頭痛が出てくる
  • 頭痛の性質が変わってきた(以前は片頭痛だったが、だるい重い頭痛が毎日続くようになった)
  • 集中力の低下・倦怠感・不安・抑うつ感を伴うことがある

リスクが高い方

以下のような状況にある方は薬物乱用性頭痛になりやすいといわれています。

  • 元々片頭痛がある方(緊張型頭痛に比べてリスクが高いとされています)
  • 市販の鎮痛薬を月に10日以上使用している方
  • 頭痛が来る前から「念のため」に薬を飲む習慣がある方
  • カフェインを含む複合鎮痛薬を使用している方
  • 不安・抑うつ・睡眠障害がある方
  • ストレスが多い生活環境にある方

治療

薬物乱用性頭痛の治療の基本は、原因となっている薬剤の使用を減らす(離脱する)ことです。頭痛診療ガイドラインでも、薬剤離脱が薬物乱用性頭痛の第一選択治療として推奨されています。

薬剤離脱(デトックス)

原因薬剤の使用を中止または大幅に減らすことで、頭痛のパターンを改善することを目指します。ただし、急に中止すると離脱症状として頭痛が一時的に悪化したり、吐き気・嘔吐・不眠・不安などが出現することがあります。このため、自己判断での急な中止は避け、専門医の指導のもとで計画的に進めることが重要です。

離脱の方法については患者さんの薬剤の種類・使用量・日常生活の状況に合わせて、外来で対応できる場合と入院管理が必要な場合があります。当院では原則として外来での対応を行っていますが、症状が重い場合は入院設備のある医療機関へご紹介する場合があります。

離脱後の治療

薬剤離脱に成功した後は、元々あった頭痛疾患(片頭痛・緊張型頭痛など)に対する適切な治療を改めて行います。予防薬の導入や、急性期治療薬の適切な使用方法についての指導を行います。

離脱後に片頭痛発作が続く場合には、CGRP関連製剤(エムガルティ・アジョビ・アイモビーグ)が有効な選択肢となることがあります。

治療の見通し

薬剤離脱に成功した場合、多くの方で頭痛の頻度・強さが改善するとされています。ただし再発率もある程度あるため、離脱後も適切な薬の使用方法を維持することが重要です。頭痛ダイアリーをつけながら、定期的なフォローアップを行うことをお勧めします。


予防

薬物乱用性頭痛を予防するためには、頭痛薬の使用頻度に注意することが最も重要です。

  • 鎮痛薬・トリプタン製剤の使用は月に10日未満を目安にする
  • 頭痛ダイアリーで薬の使用日数を記録し、使いすぎていないか確認する
  • 頭痛発作の頻度が月に一定回数以上ある場合は、急性期治療薬に頼りすぎず、予防薬の導入を専門医に相談する
  • 「念のため」「頭痛が来そうだから」という理由での予防的な内服は避ける

当院へのご案内

当院では脳神経外科専門医・頭痛専門医が診察を行っており、CT・MRIによる画像検査を院内で施行できる体制を整えています。「以前より薬が効かなくなってきた」「頭痛薬を飲む頻度が増えてきた」「毎日のように頭が痛い」という方は、薬物乱用性頭痛の可能性も含めて一度ご相談ください。

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頭痛専門外来
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工藤 琢巳

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